その脳の自然治癒力の具体的な担い手は、神経幹細胞という万能の細胞です。 その神経幹細胞が健やかに育つと脳の傷を埋めてくれます。 *1),2),3),7)
今回の記事では、うつ病の脳の傷を治す脳の神経幹細胞を説明します。
過去の関連記事のまとめ
今回の脳神経幹細胞の内容がよく理解できるように、「鍼(ハリ)でうつ病を治す」の連続記事の1回から3回までを内容をまとめます。- うつ病は脳の傷によって作られています。 その脳の傷を作るのはストレスです。
- ストレスがあると脳内ではストレスから身体を守るために抗ストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールと言います。 コルチゾールはおおまかには有名なステロドと同等です。
- 短期間であれば、コルチゾールはストレスから身体を守ってくれます。 しかしストレスが慢性化すると、コルチゾールが止まらずに出続けて、今度は脳細胞に傷をつけます。 うつ病を作る脳の傷ができます。 *3)
- ストレスの慢性化で生まれるのが脳細胞の傷と筋肉のコリです。 脳細胞の傷はうつ病そのものですが、筋肉のコリは脳の傷を悪化させたり、回復を妨げます。
詳細は下の目次から関連ページを見て下さい。
目次(テーマごとのページ)
今回の記事に関連するこれまで連続記事の目次です。
第1回 まえがきと目次と概要
第2回 うつ病は脳の傷
第3回 ストレスが脳の扁桃体の傷を作る
第3b回 ストレスが筋肉のコリを作る
神経幹細胞が脳の傷を治す
従来、脳の細胞は一度傷つくと治らないと考えられていました。
しかし最近の医学情報では、手のひらの傷が自然と治るのと同じように脳細胞の傷も治ることが既成事実として語られています。
その脳の傷を治す中心的役割をするのが神経幹細胞です。 ちなみに手のひらの傷を治すのは皮膚の幹細胞です。
神経幹細胞は脳細胞の赤ちゃんのようなものです。 その赤ちゃんがしっかり育ち成人になると脳の傷を埋めてくれます。 そしてうつ病が治ります。
ストレスが脳の傷の回復を阻害する
神経幹細胞は赤ちゃんのようなものですから、弱い存在で、しっかり守ってあげる必要があります。
かよわい赤ちゃん
24時間途絶えることのないストレスが続くと、コルチゾールは脳神経を委縮させて、細胞死を作りだします。同様にストレスが作るコルチゾールは、神経幹細胞も殺してしまいます。
そうなると赤ちゃんである神経幹細胞が次々と生まれたとしても、直ぐに死んでしまって、傷を埋めることができません。
脳の神経幹細胞の数を増やしても脳の傷は埋まらないということです。
ここにうつ病の治療の本質があり、現在のうつ病治療が抱えている問題を示しています。
筋肉のコリ
第3回の記事で、ストレスには2種類あると説明しました。 1次ストレスと2次ストレスです。 1次ストレスは人間関係、長時間労働、孤独などです。 2次ストレスは身体の筋肉のコリです。
その24時間続き、消えないストレスが筋肉のコリです。
逆に考えると、筋肉のコリを取ると長時間続くストレスが無くなり、神経幹細胞が健やかに育ち、成人になりことができます。
うつ病を治すには、筋肉のコリを取ることです。 シンプルですが、ベストの解決法です。
筋肉のコリを効率的に取るとなると鍼灸のはり施術の出番です。
うつ病の鍼灸のはり施術は次回以降の記事で詳しく説明します。
神経幹細胞数と老化の関係
うつ病により作られた傷に限らず、脳の傷を埋めてくれるのが神経幹細胞です。
若い人であれば、脳の傷が治るというのは直観的に理解できます。 それに対して中年、あるいは高齢者であっても脳の傷が治るのかという疑問が生まれてます。
神経幹細胞は脳内で生涯にわたり生まれ続けています。
神経幹細胞は脳内の複数の箇所で生まれています。 たしかに、加齢と共に神経幹細胞の発生数が減る箇所もありますが、ある場所では高齢になっても若い時と同じ数の神経幹細胞が生まれています。
場所は海馬の歯状回です。 面白いことに、1番幼弱な神経芽細胞数(赤ちゃんの人数のようなもの)は、加齢よる減少が少ないです。*4)
これは高齢になっても脳の傷は治ることを意味します。 学術論文でもそのことが示唆されています。*5)
神経幹細胞が生まれている場所
脳内で神経幹細胞が生まれている場所は海馬の歯状回、扁桃体と脳室下帯です。*1),2),3)
下図1の赤い部分が脳室の神経幹細胞が生まれている場所です。 それと海馬の拡大図中の茶色の部分です。
海馬の歯状回
海馬は記憶に関係する部分で、横から見るとひらがなの英語のC形です。*6)
海馬の歯状回は脳の底に近い場所に位置します。
海馬の歯状回は英語では、hippocampus dentate gyrus です。
神経幹細胞は生まれている場所は、下図1の右下の拡大図に描かれています。 その中の少し濃い茶色の部分です。
その先に扁桃体がありますが、図には描かれていません。 扁桃体の傷がうつ病です。
脳室の側壁
海馬は広く世間に知られていますが、脳室下帯は余り知られていません。 脳室下帯と言ってもほとんど人は何のことか分からないと思います。
英語ではsubventricular zoneといいます。 日本語を使うネット検索では、有力な情報を得れませんでした。 しかし英語で調べると下記の図が出てきました。
分かり易い図です。私が調べた限りでは、これ以上の有力な情報はありません。
その図では、どうやら脳室下帯ではなく、脳室の外壁と理解するのがいいと思いました。
脳室は下図1のブルーで描かれていて、立体的に上下、左右に広がっています。 その外壁部分(赤の部分)で神経幹細胞が生まれています。
脳室の上部が第3脳室で、図2で示します。 古い文献では神経幹細胞が生まれているのは第3脳室周囲であると書いてありますが、下図1で分かるように広い範囲に広がっています。
扁桃体
扁桃体の傷を治す神経幹細胞は、扁桃体基底外側核にあります。 扁桃自体に神経幹細胞があるので、脳の傷(うつ病)が治ります。 *7),8),9)
ですから適切な鍼灸のハリ施術ですると1月後には、うつ病が正常値になる理由です。
図1 神経幹細胞が生まれている場所 脳室外壁と海馬歯状回 |
by Beyond the Dish
図2 脳室のイラスト |
脳科学辞典からの出典 脳室と脳室の展開図
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p183より改変して転載
神経幹細胞が移動して臭神経細胞の傷を治す
神経幹細胞が生まれている場所は大きく見ると海馬と脳室外壁ですが、そこから距離の離れた臭神経細胞が治るという科学論文があります。 *10),11)
図3で示めされている英語のolfactory_bulbが臭神経細胞です。 右の上部に掛かれているのが海馬と脳室です。そこで神経幹細胞は作られ、移動して臭神経細胞を修復することが分かります。
これが意味することは、神経幹細胞が生まれている場所から離れた場所にある脳の損傷も治ることです。
もっとわかり易くいうと、脳の損傷は場所に関係なく治る可能性があるということです。 ただし神経幹細胞の移動距離が長くなると修復の効率はおちますが、基本的に脳の傷はどこにあっても治る可能性があります。
図3 顔と脳の臭神経の位置関係 Head anatomy with olfactory nerve. Olfactory bulb |
By Patrick J. Lynch, medical illustrator. (labeled by was_a_bee) - File:Head_olfactory_nerve.jpg by Patrick J. Lynch, medical illustrator, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=37206430
理化学研究所 2019年6月4日報道発表資料からの抜粋
10) 神経幹細胞が移動して嗅覚神経を治すイメージ図
日々新生される神経幹細胞の数を読み取る
脳神経外科医の川堀真人先生のホームページには、一日に新生される数までは不明ですが、成人の神経幹細胞数を知ることができるグラフが載っています。
オリジナルの論文は、「Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging
Cell Stem Cell」 . 2018 Apr 5;22(4):589-599.e5. doi:10.1016/j.stem.2018.03.015.
です。
原文をGoogle翻訳して読んでも意味が良く分かりません。 それで私なりに実験結果のデータからその意味を読み取りました。
そのグラフで神経幹細胞の数を、私が読みとると:
神経幹細胞の数は、海馬の歯状核の前・中・後でそれぞれ500個位です。 全体で大体1500個くらいです。
歯状核の前部では、かなり分化が進んだ細胞は、加齢よる数の減少があります。 中・後では加齢よる減少はほぼ無しです。
面白いことに、1番幼弱な神経芽細胞数(赤ちゃんの人数のようなもの)は、加齢よる減少が少ないです。
これは、高齢でも、多少の数の減少がありますが、幹細胞の数は若い時と同じように生まれています。 残念なことに、加齢により、それが育ちにくくなることを示しています。
逆に考えれば、加齢により育ちにくくなるなら、育ち易い環境を作ってあげるだけでいいわけです。 食事による動脈硬化の改善、運動により脳由来神経栄養因子(BDNF)を高めれば若い時と同じように、幹細胞が育つ可能性を暗示しています。
神経幹細胞の数は、海馬の歯状核の前・中・後でそれぞれ500個位です。 全体で大体1500個くらいです。
歯状核の前部では、かなり分化が進んだ細胞は、加齢よる数の減少があります。 中・後では加齢よる減少はほぼ無しです。
面白いことに、1番幼弱な神経芽細胞数(赤ちゃんの人数のようなもの)は、加齢よる減少が少ないです。
これは、高齢でも、多少の数の減少がありますが、幹細胞の数は若い時と同じように生まれています。 残念なことに、加齢により、それが育ちにくくなることを示しています。
逆に考えれば、加齢により育ちにくくなるなら、育ち易い環境を作ってあげるだけでいいわけです。 食事による動脈硬化の改善、運動により脳由来神経栄養因子(BDNF)を高めれば若い時と同じように、幹細胞が育つ可能性を暗示しています。
まとめ
脳の神経幹細胞が脳の傷を治してくれます。 神経幹細胞の数は加齢よる減少が少ないので、生涯を通じて私達の脳の傷は治る可能性があります。
神経幹細胞の成長させて脳の傷を埋める一番重要なことは、ストレスを取り除くことです。 特に24時続くストレスとなる筋肉のコリを取る事です。 それにははり施術がベストです。 これが出来ないと神経幹細胞、すなわち細胞の赤ちゃんは直ぐに死んでしまいます。
ストレスを取り除くことができれば、食事と運動で神経幹細胞の成長を促進することができます。 そして脳の傷は修復されます。 うつ病が治ることになります。
この事実は私達に大きな元気を与えてくれます。
参考文献
1) 書籍 「目で見る脳とこころ」 編著者:松澤 大樹 NHK出版 2003年
強度の心理的ストレスが加わると,海馬神経細胞の 脱落あるいは萎縮が起こることが報告されている(3,4). これらの変化はおそらく,HPA 系の過剰反応による グルココルチコイドの上昇が一因であろうと推定され ている.
4) Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging
Cell Stem Cell
. 2018 Apr 5;22(4):589-599.e5. doi: 10.1016/j.stem.2018.03.015.
5) アルツハイマー型認知症の病態の回復可能性が実験モデルで明らかに
国立精神・神経医療研究センターの2017年1月31日プレスリリースからの抜粋アルツハイマー型認知症の発症に大きく関わるアミロイドベータタンパク質(Aβ)の集合体(Aβオリゴマー)によって引き起こされるタウ異常を含む神経細胞の異常な変化が、Aβオリゴマーを除去することによって回復しうることを、実験モデル系を用いて初めて明らかにしました。
理化学研究所 2019年6月4日報道発表資料からの抜粋
CAPONがタウタンパク質と結合することを見いだしました。そして、ヒトのアミロイド病理を再現するモデルマウスの脳でCAPONを強制発現させると、タウ病理と神経細胞死に伴う脳の萎縮が促進されること、逆に、タウ病理と神経細胞死を再現するモデルマウスでCAPON遺伝子を欠損させると、脳の萎縮が抑制されることが明らかになりました。このことから、CAPONはアミロイド病理下において、タウ病理、神経細胞死を誘導する重要な因子であると考えられます。
快適でよい環境は扁桃体の前駆細胞増殖を刺激する
初版: 2009年6月29日
成体霊長類の扁桃体および隣接する皮質で新たに生成されたニューロン
PNAS August 20, 2002 99 (17) 11464-11469;
成体マウスの基底外側扁桃体で新たに生成された介在ニューロンの証拠
D J Jhaveri,1,2,5,* A Tedoldi,1,5 S Hunt,1 R Sullivan,1 N R Watts,3 J M Power,4 P F Bartlett,1,6,* and P Sah1,6,*
11)神経幹細胞が移動して臭神経細胞の傷を治す
2008年9月1日 京都大学 今吉 格 研究員、影山 龍一郎 教授
従来、ニューロンの産生は発生期においてしか行われないと考えられていたが、ヒトを含めた哺乳類の成体の脳においても神経幹細胞が存在し、側脳室周囲の脳室下帯や海馬の歯状回といった特定の領域では、ニューロンの新生が一生涯続いている事が解ってきた。特に、嗅球においては多くの顆粒細胞が新生ニューロンに置き換わっている事から、神経新生は嗅覚神経回路の再構成に寄与している可能性が示唆される。
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