第3回 老化の原理
(老化は病気、将来は治せるようになる)

2021年3月20日

細胞・遺伝子 書籍 老化・若返り

t f B! P L
本「ライフスパン」*1)で説明されている老化の原理を、ざっくり説明します。
 
読書後の疑問を解消するために、自分で調べた内容で補足してあります。


老化を一言でいうと

エピゲノム遺伝情報の維持が困難になったり、細胞内にゴミが溜まった状態です。

一言で老化を説明しても、何が何かだかよく解らないと思います。
その補足説明をこれより下に書きます。

生活のインフラである道路の維持管理 

特に、エピゲノムの遺伝情報の維持が重要です。 それを例えると、生活のインフラである道路の維持管理のようなものです。 

エピジェネティクとエピゲノムとは
DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりがエピゲノムです。 *2)

幹線道路であれば、交通量が多いので、痛みが激しいです。 道が大きく壊れる前に、早め早めに不具合箇所を修繕して、出来るだけ快適に長く使えるように管理しています。

維持管理が適切にできないと、道路は老朽化して最後は使えなくなります。 身体の老化も同じです。 エピゲノムの遺伝情報の維持管理が適切にできないと老化につながるります。

車で混雑している幹線道路
車で混雑している幹線道路
lorikoenig715によるPixabayからの画像

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DNAの損傷

生命活動自体がDNAの損傷を引き起こす1番の原因です。 1つ細胞で1日に数万回の損傷を起きているといわれています。*3) 身体全体では、エラーの総計は100京にのぼると言われています。 本当にすごい数のDNAが損傷しています。 

DNAの中には、遺伝子の維持管理と、損傷を修復する働きが備わっています。 

維持管理の指令をする管理監督者

「遺伝情報の維持管理」は、事務所いて維持管理の指令をする管理監督者のイメージです。 現場で直接修繕の作業をする現場作業員ではありません。 

「遺伝情報の修復」は、現場作業員による修繕のイメージです。  


DNAの大きい損傷

DNAの損傷が大きい時には、修復の現場では人手が足らなくなります。 その時は事務所にいる管理監督者も現場にヘルプ要員として派遣されます。 

そうなると司令室に管理者不在が生まれ、日常の維持管理ができなく成ります。 その結果、遺伝情報の維持が困難になり老化が進みます。

DNAの損傷の修復のゴミ

また細胞にDNAの損傷の修復で作られたゴミが溜まると、それも老化を進行させます。
そのゴミを取ると、細胞の若返りとなります。


エピジェネティク と エピゲノム

私達の身体は、皮膚、目、爪、歯、骨、心臓、神経、血管など多くのパーツから作られています。 それらのパーツの設計図は、DNAの遺伝情報の中に分散して保管されています。

身体には約60兆個の細胞がありますが、そのひとつひとつは同じDNA遺伝情報を持ちます。

爪から歯が生えない

爪から歯が生えてこないように、爪の細胞では、爪の遺伝情報だけが読みとられるようになっています。 他の必要ないパーツの遺伝情報の部分は、スイッチがOFFになって読み取れないようになっています。

DNAのON、OFFのスイッチ

遺伝情報を大きく2つの部分で考えます。 1つは構造が堅牢な全設計図のDNAです。2つめは、DNA情報の読み取りのON、OFFのスイッチに相当するのがエピジェネティックです。 


DNAの情報の読み取り

OFFのスイッチの化学反応(DNAのメチル化)

厄介な言葉のひとつ目がDNAのメチル化です。 
それは、DNAの設計図のOFFをするのが、細胞内の生化学反応のメチル化です。 

DNAのヒストンと脱アセチル化

もう一つの厄介で理解困難な言葉がヒストンと脱アセチル化です。 

細胞の核内に長いDNAが保存されています。 DNAは長いままでは、絡み合ったりして、収まりが悪いので、糸巻きのようなものに巻かれてすっきりと収納されています。 その糸巻きをヒストンといいます。 

細胞内の生化学反応の脱アセチル化は、そのDNAのヒストンの巻きつきが強まります。
DNA情報は読み取り難くなります。

アセチル化は巻きつきが緩まります。 DNA情報は読み取り易くなります。


DNAのヒストンと脱アセチル化の意味

DNAのヒストンと脱アセチル化の意味するところは分かり難いので、私なりの理解で説明します。 間違っているかもしれませんが、理解の半歩にもなれば幸いです。

細胞内は一種の自動化された24時間稼働の巨大化学工場で、生きる為のタンパク質合成をたゆまなく行っております。

その設計図はDNAで、それを元に化学工場向けの作業指示書が次々とでます。 作業指示書を出すところは自動化されていて、死ぬまで停止しません。 作業指示書は、DNAの一部を読み取り、作られるmRNAです。

細胞内でその作業指示書のmRNAの情報を元に、細胞内にあるリボソームでタンパク質合成がなされます。

老化の抑制とは命の節約をすることである

脱アセチル化でヒストンの巻き付きが強まると、DNAからmRNAを読み取り取り難くなります。 無駄なタンパク質合成を抑制できるので、エネルギーの浪費、いってみれば命の節約です。 それで老化を抑えることになります。 

サーチュインは脱アセチル化を作る酵素を増します。 それが老化に効くという訳のようです。


エピジェネティックは不安定

ストレスにより、DNAは損傷を受けるし、それに影響されてエピジェネティックも変わり易いです。 日々の維持管理が滞るとエピジェネティックは不安定になります。 

そのエピジェネティックが不安定になるのが老化です。 

DNAの遺伝情報の劣化は老化でない

1万年前に絶滅したマンモス象からDNAの取り出しができることで分かるように、DNAは化学的に構造が堅牢です。
 
年老いたマウスの劣化したDNAを使いクローニングの遺伝工学で、若いマウスが生まれます。 老化の遺伝情報は、伝承はされていません。 
 
2つの事実から、「ライフスパン」の著者 デビット・A・シンクレア先生は、そのDNA自体の劣化や損傷は、老化とは見なされていません。 

エピジェネティックが不安定

エピジェネティックが不安定(老化)のわかり易い例は、糖尿病の末期では、傷ができると、その傷がいつまでも塞がりません。 遺伝情報を元に作られる皮膚と筋肉を作るたんぱく質合成が老化により進行しません。

メチル化

傷が出来た部分の細胞で、皮膚と筋肉を作るたんぱく質合成作るDMAの遺伝情報を読み取るスイッチがOFFになっています。 エピジェネティックが不安定になり、本来はONになるスイッチがOFFになっています。 

細胞内で連続反応が正しく積み重なった結果として、すなわち遺伝情報の読み取りの連続反応後に、新しく皮膚と筋肉が作られます。 その中で1つでも正しく遺伝情報を読み取れないと、スイッチがOFFになっていると、皮膚と筋肉が正しく作られずに、傷がいつまでも塞がりません。

それが、老化が作る、細胞内の生化学反応のメチル化によります。
スイッチのOFFが細胞の遺伝情報のメチル化です。

アセチル化

或いは一部に不必要なスイッチがONになっている場合もあります。 不完全な細胞が作られることになります。 その場合に細胞は自己防衛反応で自死を選びます。

こちらの場合は、スイッチのONに相当するのがアセチル化です。 
老化が進むと身体のいろいろな場所が緩んできます。 「老化=緩む」ことは実感として理解できます。 遺伝情報の糸巻き器ののヒストンへの巻き取りが緩むことがアセチル化です。


サーチュイン

サーチュインは、長寿命遺伝子と言われています。 今注目されている代表的な長寿命遺伝子です。 直接的には、損傷したDNAの修復をしませんが、それの調整等の管理監督を担っています。 また損傷したDNAの現場に派遣されることもあります。

寿命を延ばす

酵母菌とマウスでサーチュインが増加すると寿命が延びることが分かっています。


ビタミンB3とNMN

人の場合は、ビタミンB3(ニコチン酸、或いはナイヤシン)を1次原料として、NAD合成酵素によりNMN(ニコチナミド・モノヌクレオチド)という中間物質に変換されます。 そのNMNからNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が作られます。*4) 

十分の量のNAD+があると、サーチュインの活性が増えて、寿命が延びるが分かっています。

高齢になるとNADが減る

高齢になると、NAD合成酵素の分泌が減り、十分の量のNAD+が作られなくなり、サーチュインの活性が低下して、老化が進行しすます。 遺伝情報の維持が困難になり、エピジェネティックが不安定が高まり老化につながります。

NMNサプリ

上記のNMNのサプリメントが市販されています。 サプリメントについては「老化は病気、将来は治せるようになる 第1回」で紹介しています。



細胞内にゴミが溜まる

細胞にDNAの損傷の修復の際にできるゴミが細胞に溜まります、そのゴミも老化を進行させます。 そのゴミを取ると、細胞が若返ります。

細胞にDNAの損傷修復の際にでるゴミの説明は話が長くなるので、今回は割愛します。


まとめると

細胞内の遺伝情報の維持をしっかりすると寿命が延びます。 
また細胞内のゴミを適切に排泄すると寿命が延びます。


「DNAの遺伝情報の劣化は老化でない」に対する私見

最後に私見を書きます。 

私の理解では、サーチュインが作る脱アセチル化酵素で生まれるのは、「命の節約である」と分かりました。 サーチュインが何か特別な不老不死の物質を作りだしている訳ではありません。

エネルギーの節約をして、寿命を延ばしているに過ぎません。 エネルギーの節約で一番効果があることは、食べる量を減らす、カロリー制限です。 食事のカロリー制限が老化予防に効果がある理由です。 命の節約をするので、エントロピーも増大しないので、寿命は長くはなります。 

しかし細胞内では、確実に老いが日々進み、そして限りある寿命を全うして等しく死を迎えます。

山中教授のiPS細胞でも、老いた細胞では巧くいってないようですし、
やはり老化の遺伝情報は伝承されると考える方が自然です。 私見です。


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参考文献

●1) 書籍 「ライフスパン」 著者 デビット・A・シンクレア 東洋経済新報社


日本医療研究開発機構ホームページ内記事


DNAの損傷は、細胞内における正常な代謝の過程でも1細胞につき1日あたり50,000〜500,000回の頻度で発生し、また、様々な要因によりその発生頻度が大きく押し上げられることもある

●4)血液中を巡っているNAD合成系酵素eNAMPTが、哺乳類の老化と寿命を制御していることを解明―国立研究開発法人日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/news/release_20190614.html

●5)細胞内のリボソームの数
https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_2/


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